小説「ラスト・シャーマン」

魏志倭人伝にわずか数行記された
卑弥呼の弟の物語

卑弥呼は、鬼道に事え衆を惑わした。年長で夫はいなかった。弟が国政を補佐した。王となって以来人と会うことは少なかった。千人の従者が仕えていたが、居所である宮室には、ただ一人の男子が入って、飲食の給仕や伝言の取次ぎをした。

魏志倭人伝より

なぜ卑弥呼は、民の前に姿を現さなかったのか。
卑弥呼は、本当に存在していたのか。

ある日、少女が抱いたそんな疑問から生まれた物語は、彼女が大人になった時、思いもよらない結末を迎えました。

この物語が誕生したのは、1980年代。一人の女子高生が気まぐれに書きあげた短編小説が、「ラスト・シャーマン」の第一章です。魏志倭人伝の中に、わずか数行登場する卑弥呼の弟。重要な役目を担っていたと思われるのに、その名さえ記されていません。そのことに疑問を持った瞬間に、彼女の頭の中にストーリーが浮かんできました。この頃、天照大神は卑弥呼が神格化されたものと考えていた彼女は、女王の弟を、三貴神の一柱、「月読」と名付け、彼を主人公にした物語を書き上げました。

 

2010年初頭、大人になった彼女は再び自分自身の作品と向き合い、続きを書くことになります。物語が進むうちに、舞台は邪馬台国から吉備、出雲、伊予、狗奴国へ。登場人物たちとともに旅を続けながら、航海が主な交通手段であった古代において、勢力を広げていた海人族の存在と、彼らが信仰していた神が月読尊であったことを知ります。一方、同時代の大陸に目を向ければ、激動の三国時代。難民として倭国へ渡来してきた人々もいたのではないか。必然的に起こるであろう異民族間の衝突と融合。それが、物語後半の骨子となりました。

物語のもうひとつのテーマは、占いに頼っていた政(まつりごと)から、人が考え導いていく政治への変遷です。自然界にあるすべてに神が宿ると信じ、神の言葉を唯一のよりどころとしていた倭国の人々。時には、何もかもを神まかせにして、自ら考え、行動することさえ放棄していたかもしれません。しかし、外圧が迫るにつれて、そんな倭国にも変革の波が押し寄せてきます。変革には犠牲と混乱が付きものです。そこで為政者が抱えたであろう苦悩と、役目を失った巫女たちの行く末。この物語には、登場人物たちの人生を辿ることで、それらを体感できればとの思いが込められています。

物語は、やがて海を越えて

「ラスト・シャーマン」から、物語は舞台を変えて、三国時代の中国へ。当時、海を渡った倭人の青年の目を通して見た、大陸の状況を想像して描いた作品です。

卑弥呼に金印を送った幼帝の物語

卑弥呼が魏の皇帝へ使者を送った年には諸説があります。この物語の中では、明帝が亡くなり、即位したばかりの幼帝 曹芳(そうほう)が使者に対応したと設定しています。即位したとき、わずか8歳であったともされる曹芳。歴史上は、不名誉な理由により、23歳で廃位されたことになっています。しかしこれが、のちに曹家から政権を奪う司馬家により残された記録だとすれば、真実は異なるかもしれない。そんな思いから、この物語は誕生しました。

物語は、やがて海を越えて

「ラスト・シャーマン」から、物語は舞台を変えて、三国時代の中国へ。当時、海を渡った倭人の青年の目を通して見た、大陸の状況を想像して描いた作品です。

卑弥呼に金印を送った幼帝の物語

卑弥呼が魏の皇帝へ使者を送った年には諸説があります。この物語の中では、明帝が亡くなり、即位したばかりの幼帝 曹芳(そうほう)が使者に対応したと設定しています。即位したとき、わずか8歳であったともされる曹芳。歴史上は、不名誉な理由により、23歳で廃位されたことになっています。しかしこれが、のちに曹家から政権を奪う司馬家により残された記録だとすれば、真実は異なるかもしれない。そんな思いから、この物語は誕生しました。