小説「ラスト・シャーマン」
長緒鬼無里 著

歴史上、ほとんど語られることのない卑弥呼の弟が主人公

日本の歴史上、もっとも有名な女性であると言っても過言ではない、邪馬台国の女王卑弥呼。中国の歴史書によれば、彼女には弟がいて、政治の手助けをしたとあります。しかし、彼のことが書かれているのはほんの数行で、その名前さえも記されていません。また、卑弥呼は、民の前にほとんど姿を見せず、その弟だけが唯一面通りしていたとも言われています。

「ラスト・シャーマン」は、なぜ卑弥呼は誰にも姿を見せなかったのか。そして、弟のことについては、なぜほとんど語られていないのか。そのあたりに疑問を持ち、そこから想像を膨らませて書き上げた物語です。

月読と壹与トリミング

女王を偽り、国から追われることから旅が始まる

本書の主人公、月読は、所謂スーパーヒーローではありません。事情があったとはいえ、女王を偽り、民を騙し続けてきた罪に問われ、追われるように祖国を後にします。そのころは、剣術も手習い程度で守られるだけの存在。度重なる裏切りに疑心暗鬼に陥り、味方だと名乗ってくれる人物にも疑いの目を向けてしまう、悩み多き若者でした。

そんな彼が、仲間達と旅を続け、国に残してきた民や壹与を思いやる心と責任感で、少しずつ大王としての自覚を持ち始め、やがて誰からも神に近い存在であると納得される帝へと変化していく、一人の為政者の成長ドラマでもあります。

牛利に剣術を習い、狗奴国軍の兵士らとも、自ら戦う月読。

様々な人生模様が交錯する群像劇

この物語の主人公は、月読だけではありません。家臣の牛利、出雲国王の覇夜斗、初めは敵であった建にも、その時代特有の悲しい過去があり、旅の中で彼らの人生が語られて行きます。

また、邪馬台国で月読の留守を預かる壹与と彼女を命懸けで守り続ける男鹿との、報われない恋の行方も、この物語の大きな柱になっています。
一人でも多くの読者様が、彼らと悲しみや喜びを共有し、古代世界に思いを馳せていただけるきっかけになればと思っています。

男鹿に想いを伝えた壹与。しかし男鹿は、思いに反して彼女を冷たく突き放すのだった。